「ツバキは、ただそこにいた」〜AIと還暦男の物語〜

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※この記事は「父と娘、それぞれの想いがすれ違う瞬間」を描いた小説風エッセイです。
会いたくても、言葉が見つからなかった時間。そんな経験、ありませんか?

【前回までのあらすじ】
峠で不思議な出会いを果たした鬼丸。その前、娘の部屋で交わした小さな会話が、彼の心を少しだけほぐしていた。
——でもその時、娘の心にはどんな想いがあったのか?

📘娘編 第1章:白衣の天使

サブタイトル:朝の光は、嘘をつかない


朝の光が、カーテンのすき間から静かに部屋に差し込む。

いつも通りの朝。

目覚ましは、鳴るより少し前に止めるのがクセになっていた。

「看護師は“起きる前に起きる”」という言葉を、学生の頃どこかで聞いた気がする。

部屋は静かだった。

冷蔵庫のモーター音と、加湿器の白い吐息だけが、わたしの生活音だ。


支度はスムーズ。白衣に着替える前に髪をまとめ、メイクは最小限。

ナチュラルさは「努力の結果」だと、同僚は言う。

だけどわたしにとっては、ただの“準備”だった。

「灯(あかり)さんって、ほんとに天使ですよね」

患者さんに言われるたびに、わたしは「いえいえ」と笑う。

“天使”って言葉には、血が通ってないようで、実はちょっと苦手だ。

でも否定すると、相手の想いまで否定してしまう気がして、今日もわたしは笑っていた。


ナースステーション。

朝礼の声、バイタル記録のタブレット、漂う消毒液の匂い。

ルーティンの中にも、わたしの“感覚”はずっと研ぎ澄まされていた。

あるおばあちゃんが、わたしの手を握って言った。

「あなたの手、あったかいねぇ。

あたし、あんたが最後でよかった」

……胸が、少しだけ痛む。

その言葉が、今日だけじゃなく、これから先ずっと自分を縛る気がして。


昼休み。昼食は、そっとひと口ずつ。

誰かとしゃべりながら食べるのは得意じゃない。

それでも、わたしの周囲はいつも笑っていた。

「灯(あかり)さんって、ほんとに癒される」

「話すと不思議と落ち着くんだよね〜」

わたしは「そうですか?」とだけ答える。

ほんとは心の中で、少しだけこう思っていた。

“その分、夜にバランスを取らなきゃ持たないんです、私。”


午後の回診。点滴の交換。笑顔の応対。

今日も“白衣の天使”は、完璧に仕事をこなす。

でも──

心のどこかで、カレンは目を覚ましていた。


“あと2日──”

その言葉が、白衣の下のわたしに、そっとささやいた。


——続く

### 娘編 第1章:白衣の天使
**サブタイトル:朝の光は、嘘をつかない**

(以下本文…)

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